相談支援専門員の仕事をしていると、障害のある方を対象にした相談の中で、ジレンマを抱えるケースが多数あるかと思います。近年話題になっているテーマとして、「地域定着支援で対応しているサービスの内容が、事業所によってかなり違う」ということがあります。
地域定着支援というサービスでは、どこまで対応するかは事業所の判断にゆだねられていることが現状ですから、悩ましい問題と言えます。そこでこの記事では、地域定着支援のサービスでどこまで対応するべきか、またはするべきではないのかをテーマに、社会福祉士である筆者が、事例と見解を紹介していきます。
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- 地域定着支援のサービスはどこまでやれば良いの?
- 地域定着支援の現状と課題
- 生活支援の多くを担っているケース
- 緊急時の対応のみで済んでいるケース
- 相談支援事業所としての運営面での問題
- 課題解決のための方策―各事業所で情報を共有する
- 事業所としてのルールを決めることも大切
1,地域定着支援のサービスはどこまでやれば良いの?
この記事を読んでいる方であればご存知の方も多いかと思いますが、地域定着支援とは、障害のある方が病院や施設から地域移行し、その後の地域生活を続けていくための「地域相談支援」のことです。
対象は1人暮らしをしている障害者か、家族と同居している場合でも病気などの理由から支援が見込めない方となっています。
利用者さんがせっかく地域移行しても、その後の単身生活で困ったことが出てきた場合、1人で解決することが難しい場合もあるでしょう。
生活全般の課題に対応
地域定着支援は、そうした「緊急時」に相談支援事業所に頼ることができる制度となっています。サービスの請求要件としては、常時の連絡体制を確保し、緊急時に相談などのサービスを提供することとなっています。
「緊急時」とは、災害時以外にも、家電の故障など住居に関する問題や、精神的な不安、病状の変化への対応など、生活面全般の困りごとが当てはまり、多岐にわたります。
そのため、「いったいどこまで対応すれば良いの?」という疑問が出てくることも当然と言えます。
2,地域定着支援の現状と課題
利用者さんの様々な困りごとに対して、地域定着支援を担っている事業所として対応していきたい気持ちはあるものの、あまりにも頻繫に訪問が必要になってくると、時間や労力が取られすぎるという課題が発生してきます。1人の支援に対する負担が大きくなってくると、他の事業に影響が出てしまいかねませんよね。
地域定着支援に対する1か月間の報酬は、一部加算制度を請求できる場合があるものの、基本的には何回訪問しても一定となっているからです。令和3年現在、報酬単価は体制確保費が306単位、緊急時支援費Ⅰが712単位となっています。
このように報酬単価が低いので、事業所の運営面と、利用者への対応のバランスが難しいということが課題になっています。
人によって利用頻度に差が出る
提供実績が成立するためには、必ず訪問が必要という訳ではなく、最低1回の電話などによる連絡が必須です。
同じ地域定着支援というサービスを使っていても、利用者さんの状態や障害特性によって、連絡や訪問の回数がかなり異なります。
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3,生活支援の多くを担っているケース
ここまで、地域定着支援の課題について解説してきました。
ここからは、事例を参考に、地域定着支援の実際を見ていきましょう。
ただし、地域によって福祉サービスや、インフォーマルな社会資源の充実度合いが異なります。ご自身が勤務されている地域の実情と照らし合わせながら参考にして頂ければ幸いです。
まずは、地域定着支援の中で生活支援の多くを担わざるを得ないケースをご紹介します。具体的には、下記のようなケースが当てはまる傾向にあります。
- ・ご本人が単身生活を送り、家族が遠方にいる場合や離別や病気などで支援できない場合
- ・ご本人の障害程度がある程度重たいか、重複障害を持っている場合
- ・ご本人が高齢化してきている場合
- ・家事を1人で行うのが難しいが、ヘルパーの利用を拒否する場合
- ・精神的不安などから、状態が安定しない場合
- ・地域でトラブルを起こす場合
- ・金銭管理が難しく、借金を作る場合
- ・単独での移動が難しい場合
- ・複数の病院に通っており、1人では服薬管理が難しい場合
- ・上記のような状態にありながら、他の社会資源でサポートすることが難しい地域に住んでいる場合
- このようなケースの場合は、地域にある社会資源を活用して多くの機関で支えていくことが望ましいでしょう。しかし、ご本人が新たな人間関係を拒否するなど、色々な事情によって新しいサービスを使えない場合もあります。
そのような時、地域定着支援の支援員が1人で抱え込まなければならなくなってしまったり、訪問回数が増えて事業所としての負担が大きくなってしまったりすることがあります。
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4,緊急時の対応のみで済んでいるケース
逆に、地域定着支援の利用者の中には緊急時の実の対応で済んでいるケースもあります。
例えば、下記のようなケースが当てはまります。
- 相談支援以外にも色々なサービスをうまく組み合わせることができている
- 家族以外にも近所に頼ることができる人がいる
- ご本人が自分である程度考え、動くことができる
- 障害の状態が一定であり、急な悪化がほとんどない
- 経済的にある程度余裕がある
- 支援員との信頼関係ができている
上記のような項目に複数当てはまる場合は、落ち着いて地域で生活することができているため、頻回な訪問は不要と言えるでしょう。
様子を伺うため、月1回の電話連絡で済んでしまう場合もあります。
ただし緊急時に支援員が介入できるよう、信頼関係は常に継続して作っておく必要があります。
5,相談支援事業所としての運営面での問題
ここまで、地域定着支援を利用する事例について見てきました。利用状況は人それぞれであり、支援の度合いもケースによってかなり異なるということが言えます。
相談支援事業所としては、支援の度合いが大きい人ばかり抱え込みすぎると、地域定着支援の事業単体としては赤字になってしまうでしょう。
そのため、他の事業収入で賄っていかなければなりません。
支援度合いが軽い人が多い場合は運営上もメリットはあるでしょうが、相談支援事業所としては地域のニーズに合わせて契約するため、運営面だけを考慮して契約していくことは難しいでしょう。
6,課題解決のための方策―各事業所で情報を共有する
地域定着支援の課題を解決するためには、一事業所だけで悩みを抱えることなく、他の相談支援事業所や行政と情報を共有することが大切です。
そうすることによって、新たな対策が見えてくる場合もあります。
また、1人の支援員に負荷がかからないよう、事業所として配慮することも必要です。
単純に人数では割り切れない
地域定着支援の利用人数が増えていくと、所属する相談支援専門員で割り振って担当していくことになります。この時に単純に人数で割ると、「1人〇人は担当する」という計算になりますが、この記事でも見てきたように、支援度合いにかなり差があります。
支援度合いが大きい方の担当者には人数を少なめに割り振りするような、配慮が必要です。
7,事業所としてのルールを決めることも大切
地域定着支援の特徴として、「どこまでやらなければいけない」というルールがありません。ですから、どこまででも支援できてしまうとも言えます。
一生懸命支えようとすればするほど、赤字になってしまうこともあります。
まずはどこまでやるのか、あるいは、どこからはやれないと判断するのか、事業所としてルールを決めていくことが必要です。相談支援専門員の個々の判断のみによって動いてしまうと、担当が変わった時にトラブルになりかねません。
「できることをやっていく」「ご本人が自分でできることは、自分でやってもらう」というスタンスが基本になります。
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